4%ルールはFIREでも通用する?1万回シミュレーションで検証してみた
「年間支出の25倍を貯めれば、あとは資産の4%ずつ取り崩して暮らせる」——FIREを調べたことがある人なら必ず目にする「4%ルール」です。私も30代でFIREを目指して積立をしている一人で、このルールを目安に目標金額を決めていました。
でも、ふと気になったんです。このルール、何歳からリタイアしても使えるんだろうか?
調べてみると、4%ルールの根拠になっているTrinity Study(トリニティ大学の研究)は「リタイア期間30年」を前提にした検証でした。65歳でリタイアして95歳まで、という設定なら30年で足ります。しかし40歳でFIREした場合、100歳までは60年。前提が2倍違います。
ちょうど自作のシミュレーターがあったので、この疑問を数字で確かめてみました。
検証方法
モンテカルロシミュレーションという方法を使います。「平均リターン年5%」といっても、実際の相場は毎年±の波があります。そこで、リターンのばらつき(リスク)を考慮したランダムな未来を1万通り生成し、「そのうち何%のシナリオで資産が100歳まで持ったか」を数えるという方法です。
前提条件は次の通りです。
- 開始資産:5,000万円
- 運用:期待リターン年5%・リスク(標準偏差)18%(全世界株式インデックスを保守的にみた参考値)
- 取り崩し:毎月定額(開始資産の3%・3.5%・4%を12等分)
- 判定:100歳時点で資産が残っていれば「成功」
- 試行回数:10,000回
結果:4%ルールの成功率は思ったより低い
開始年齢と取り崩し率ごとの「100歳まで資産が持つ確率」です。
| 取り崩し率(月額) | 40歳開始(60年) | 50歳開始(50年) | 60歳開始(40年) |
|---|---|---|---|
| 3%(月12.5万円) | 59% | 64% | 72% |
| 3.5%(月14.6万円) | 49% | 55% | 63% |
| 4%(月16.7万円) | 41% | 46% | 54% |
40歳で4%ルールを実行した場合、100歳まで資産が持つ確率は41%。コイントス以下でした。
数字だけだとピンと来にくいので、この「41%」の中身——1万通りのシナリオで資産がどう散らばっていくか——を実際に描いてみます。
10〜90パーセンタイル(中位80%のシナリオ)25〜75パーセンタイル(中位50%)中央値
濃い帯は中位50%、薄い帯は中位80%のシナリオ。開始資産5,000万円・期待リターン年5%・リスク18%・1万回試行。100歳時点で資産が残っているシナリオは41%(下の表)。
年齢ごとの数値を表で見る
| 年齢 | 下位10% | 下位25% | 中央値 | 上位25% | 上位10% |
|---|---|---|---|---|---|
| 40歳 | 5,000万円 | 5,000万円 | 5,000万円 | 5,000万円 | 5,000万円 |
| 50歳 | 1,579万円 | 2,697万円 | 4,445万円 | 7,051万円 | 1.1億円 |
| 60歳 | 0 | 1,018万円 | 3,610万円 | 8,373万円 | 1.6億円 |
| 70歳 | 0 | 0 | 2,429万円 | 9,687万円 | 2.3億円 |
| 80歳 | 0 | 0 | 773万円 | 1.1億円 | 3.4億円 |
| 90歳 | 0 | 0 | 0 | 1.3億円 | 4.8億円 |
| 100歳 | 0 | 0 | 0 | 1.5億円 | 7.1億円 |
濃い帯の中でも、多くのシナリオで資産は50〜60代のうちに目減りを始めます。中央値(ちょうど真ん中のシナリオ)でさえ、84歳ごろには資産が尽きています。「41%」とは、この帯の中でうまく持ちこたえたシナリオの割合なのだと分かると、数字の重みが変わってきます。
冒頭の表に戻ると、取り崩し率や開始年齢を変えるとこの「41%」がどう動くかが見えてきます。2つの傾向が読み取れます。
① 期間が延びるほど成功率は下がる。 同じ4%でも、60歳開始なら54%、40歳開始なら41%。「30年もつ設定」を60年に引き伸ばせば当然苦しくなります。ただ、差は13ポイント程度で、思ったほど「年齢」だけが支配的ではありませんでした。
② それ以上に「想定リターン」が効く。 そもそも60歳開始・40年でも54%しかありません。Trinity Studyの成功率95%前後という数字は、米国株の歴史的リターン(実質7%程度)に基づいています。今回のように期待リターンを年5%と保守的に見積もると、開始年齢にかかわらず4%ルールはかなり厳しい、というのが正直な結果でした。
ちなみに、リスクを抑えたバランス型(リターン3%・リスク10%)で40歳から4%取り崩すと、成功率は 23% まで下がります。「値動きが穏やかなら安心」とは限りません。取り崩し額が運用益を上回っていれば、静かに、しかし確実に減っていくからです。
じゃあどうすればいいのか
シミュレーションをいじりながら見えてきた、成功率を上げる現実的な選択肢は3つです。
- 取り崩し率を下げる(=目標資産を積み増す)。4%→3%にするだけで、40歳開始でも成功率は41%→59%に改善します。
- 完全リタイアにこだわらない。月数万円でも収入があれば、実効的な取り崩し率は大きく下がります(いわゆるサイドFIRE・バリスタFIRE)。
- 年金を計算に入れる。65歳以降は取り崩し額が減るはずで、これを織り込むと数字はかなり変わります。
大事なのは、「4%」という一つの数字を信じることではなく、自分の条件(開始年齢・生活費・運用方針)で確率を眺めてみることだと思います。
自分の条件で試せるツールを作りました
この検証に使ったシミュレーターは、無料のWebアプリとして公開しています。
- 「資産をつくる」:積立でいつ目標金額に届くかを確率で表示
- 「資産で暮らす」:取り崩しで資産が何歳まで持つかを確率で表示
- 年金開始などで生活費が変わるケースもフェーズ分けで設定可能
- 登録不要・データはブラウザ内にのみ保存
ぜひ自分の数字で試してみてください。
前提と注意点(正直に書いておきます)
- 本記事のシミュレーションは、リターンが毎年独立に対数正規分布に従うという単純化したモデルです。実際の相場には暴落の連鎖や回復局面など、このモデルで表現しきれない動きがあります。
- 期待リターン5%は「インフレ込みで控えめに見た実質リターン」として使い、取り崩し額は現在の価値で一定としています(このためインフレ率は0%に設定)。米国株の歴史的な実質リターンは7%程度なので、それより保守的な想定です。名目リターン(例:7%)で考えたい場合は、アプリの詳細設定でインフレ率(例:2%)を別途入力してください。「控えめな実質リターン」にさらにインフレ率を重ねると保守性の二重掛けになる点にご注意ください。
- 期待リターン・リスクの数値はあくまで参考値であり、将来を保証するものではありません。
- 本記事およびアプリは情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
筆者:yokafolio(30代・FIREを目指して積立中)。「余白のある人生」をテーマに、シンプルな家計・資産ツールを作っています。