なぜyohakulabのアプリは「登録不要」にこだわるのか

yohakulabで公開しているアプリは、すべてアカウント登録なしで使えます。メールアドレスの入力もパスワード設定も求めません。理由をひと言で言うと、登録という仕組みそのものが、作る側にも使う側にもリスクを持ち込むからです。「開発が楽だから」ではなく、預からないことを積極的に選んでいます。今回はその理由と、登録不要と引き換えに諦めていることを書いておきます。

登録という行為が積み上げる、3つのコスト

新しいサービスに登録するとき、私たちは意識しないうちに3つのコストを払っています。

1つ目は心理的コストです。 もう一つのメールアドレス確認、もう一つのパスワード、もう一つの「利用規約に同意する」チェックボックス。1つひとつは小さくても、積み重なると「このツール、ちょっと使ってみたいだけなのに」という場面での摩擦になります。

2つ目はパスワード管理の現実です。 トレンドマイクロが2026年2月に実施した調査(回答者1,034名)によると、複数のWebサービスでパスワードを使い回している人は84.3% にのぼります。前回2023年調査の83.8%からほぼ横ばいで、「使い回しはよくない」とわかっていても、現実にはアカウントが増えるほど使い回さざるを得ない構造があります。同調査では不正アクセスや情報流出の被害経験者も14.7%いました。アカウントを1つ増やすということは、この構造に加担することでもあります。

3つ目は、預かる側の責任です。 メールアドレスとパスワードのペアを保存するということは、それを守り続ける責任を引き受けるということです。個人開発の小さなアプリであっても、この責任の重さは変わりません。この責任を長期的に負い続ける自信が私にはないので、そもそも預からないという設計を選んでいます。

「退会しにくい」問題の裏側にあるもの

登録の話をするとき、もう一つ触れておきたいのが「退会のしにくさ」です。日本では2022年6月、改正特定商取引法が施行され、有償の通信販売における定期購入契約について、最終確認画面での契約条件の明示や、「いつでも解約可能」といった誤認を招く表示の禁止が義務化されました。対象は有償の定期購入契約に限られますが、無料の会員制サービスも含めて「登録は簡単、解約は面倒」という設計(いわゆるダークパターン)が広く問題視されてきた流れの一部です。

これは規約の話であって、悪意の話ではありません。ただ、アカウントを作らせるビジネスモデルには、ユーザーを囲い込みたいという力学が働きやすくなります。 登録者数はそのままサービスの指標になりますし、退会のハードルを上げれば数字は保たれます。yohakulabのアプリがこの力学と無縁でいられるのは、そもそもアカウントという「囲い込む対象」自体を作っていないからです。囲い込む仕組みがなければ、退会を面倒にする動機も生まれません。

登録不要と引き換えに、何を諦めているか

ここまで登録不要のメリットを書いてきましたが、代償もあります。

(注: シンプルFIRE計画やシンプル手取り計算のように、入力条件をURLパラメータで共有できるようにしているアプリもあります。サーバーに預けずに「続きから見られる」を両立させる、登録不要なりの工夫です。)

これらは「登録すれば解決する」不便さです。それでも登録不要を選んでいるのは、便利さと引き換えに預かる情報が増えていくことより、開いてすぐ使えて、閉じれば何も残らないという状態のほうを、自分自身が道具として使いたいと思うからです。

まとめ:預からないことは、消極的な選択ではない

登録不要は、「作り込む時間がないから」の妥協ではなく、積み上げていくと重くなる3つのコスト(心理的コスト・使い回しの構造・預かる責任)と、退会のしにくさという構造そのものを、最初から作らないための選択です。今のところ、yohakulabの全アプリ——シンプルFIRE計画シンプル手取り計算シンプル生活費精算シンプル傾斜割り勘シンプル経路比較——はこの方針のまま公開しています。

もちろん、この方針が正解だと決めつけるつもりはありません。同期や履歴が必要な用途なら、アカウント制のサービスの方が適しています。ただ、「ちょっと計算したいだけ」「今この場で精算したいだけ」という場面では、預からない道具の方が向いていると考えています。

筆者:yokafolio。「シンプルなアプリと、余白のある暮らし。」をテーマに、登録不要で開いてすぐ使えるWebアプリを作っています。

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