年金の追納・付加年金は「オルカンに回す」より得か?利回りとモンテカルロで比較してみた
前回の記事(FIRE計画に年金を入れ忘れていませんか?)で、学生納付特例の期間は追納しないと基礎年金が減る、という話を書きました。私自身、学生時代の免除期間があり「追納すべきか」を考えている一人です。
そこで湧いてくるのが、投資をしている人なら誰もが抱く疑問です。
「その追納の数十万円、オルカンに入れた方がよくない?」
年金の追納や付加年金は、見方を変えれば「国から終身年金を買う」行為です。それなら投資商品として値踏みできるはず。利回り(IRR)とモンテカルロシミュレーションで、真面目に比較してみました。
比較の前提
- オルカン(全世界株式インデックス)の想定:これまでの記事と同じ実質リターン年5%・リスク18%(名目で考える場面ではインフレ2%を足して名目7%)
- オルカン側はNISA口座での非課税運用を想定(税金ゼロ=オルカンに有利な設定)
- 年金側は65歳受給開始、判定は「100歳まで持つか」。モンテカルロ法1万回(アプリと同じ計算エンジン)
ケース1:付加年金——結論、破格です
付加年金は、国民年金の第1号被保険者(自営業・フリーランス・早期リタイア後など)が月400円を上乗せで払うと、「200円×納付月数」が毎年、終身で年金に上乗せされる制度です。
例:35歳から60歳まで25年間(300ヶ月)払うと、負担総額12万円で、65歳から年6万円が一生もらえます。2年で元が取れます。
では同じ月400円を、35〜60歳の25年間オルカンに積み立てて、65歳から同じ年6万円(月5,000円)を取り崩したら?(名目7%で計算)
| 付加年金 | 月400円をオルカン積立 | |
|---|---|---|
| 65歳時点の元手 | ―(掛け捨て) | 中央値33万円 |
| 年6万円の給付が100歳まで続く確率 | 100%(終身) | 9% |
| 資産が尽きる年齢(中央値) | 尽きない | 71.5歳 |
オルカン積立では中央値33万円にしかならず、年6万円を取り崩すと9割のシナリオで70歳過ぎに尽きます。当然で、付加年金を「投資商品」として見たときのIRR(内部収益率)は、85歳まで生きた場合で名目8.5%。オルカンの期待リターン(名目7%)を、リスクゼロで上回ってしまうんです。
オルカンの期待リターン(名目7%)
長生きするほど利回りは上昇。75歳でも早くもオルカンの期待リターン(破線)に並び、以降は上回る。しかも国が支払いを保証するリスクゼロの利回り。
弱点も正直に書いておくと、付加年金は物価スライドがなく金額固定なので、インフレが続くと実質価値は目減りします(インフレ2%が30年続けば実質半分弱)。それを織り込んでも実質IRRは6%超で、やはり破格です。第1号被保険者になったら、原則入り得(国民年金基金とは併用不可な点だけ注意)。金額が小さいので人生は変えませんが、断る理由が見当たりません。
ケース2:追納——期待値のオルカン、保険の追納
次は本題の追納です。例として、学生納付特例4年分(48ヶ月)を30歳で追納するケースを考えます。
- 追納額:約80万円(当時の保険料+経過期間加算のざっくり値)
- 追納は全額が社会保険料控除の対象。所得税10%+住民税10%の人なら約16万円が戻り、実質負担は約64万円
- リターン:基礎年金が満額化して +年8.47万円(月約7,000円)、65歳から終身。基礎年金は物価にある程度連動するので「実質ベースの終身年金」と見なせます
単純計算では、64万円 ÷ 8.47万円/年 ≒ 7.6年、つまり73歳まで生きれば元が取れます。終身年金としてのIRRはこうなります。
| 何歳まで生きるか | 追納の実質IRR |
|---|---|
| 75歳 | 0.7% |
| 80歳 | 1.7% |
| 85歳 | 2.2% |
| 90歳 | 2.6% |
| 95歳 | 2.9% |
オルカンの期待実質リターン(5%)
付加年金と違い、追納の利回りはオルカンの期待リターン(破線)には届かない。「株式の代替」ではなく「安全資産の代替」として見るのが妥当。
実質2〜3%・国が支払いを保証する終身年金。悪くないですが、オルカンの期待実質リターン5%には届きません。では実質負担と同じ64万円を30歳でオルカンに一括投資し、65歳から追納で増えるはずだった年8.47万円を自力で取り崩したら?
| 追納 | 64万円をオルカン一括 | |
|---|---|---|
| 65歳時点の資産 | ―(年金権利) | 中央値201万円(下位10%は52万円) |
| 年8.47万円が100歳まで続く確率 | 100%(終身) | 51% |
| 下位10%のシナリオ | 影響なし | 71歳で尽きる |
| 寿命が90歳だった場合 | 受け取りはそこまで | 中央値で数百万円をご家族に遺せる |
綺麗に五分でした。中央値のシナリオではオルカンが圧勝します(取り崩してもむしろ増え続け、遺産まで残る)。しかし半分のシナリオでは100歳まで持たず、運が悪い1割では71歳——「元が取れる年齢」とほぼ同時に尽きます。追納が買っているのは、この下振れと長生きの両方に効く保険です。
私の整理:どっちに回すか
- 付加年金:比較になりませんでした。第1号になったら入る。以上。
- 追納:「株式の代わり」と考えると期待値で負けますが、「債券・現金の代わり」と考えると実質2〜3%保証の終身年金は優秀です。ポートフォリオに安全資産を持つ人なら、その一部を追納に振り替えるのは十分合理的。逆に、全額株式でリスクを取り切れる(そして万一のときは資産を家族に遺したい)人は、オルカンを選ぶ判断も十分ありえます。
- どちらにせよ追納には期限があります(承認から10年)。「いつでもできる」と思っていると選択肢自体が消えるので、ねんきんネットで追納可能月数だけは確認しておくのがおすすめです。
前提と注意点
- 実質負担は税率に依存します。所得税率が20%の人なら追納の実質負担は約56万円になり、追納側がさらに有利になります。逆に所得が低く控除の効果が薄い年は追納の妙味が減ります。
- 追納額の「約80万円」は概算です。実際の額は年度ごとの保険料と加算額で決まるので、年金事務所またはねんきんネットでご確認ください。
- 受給時の年金には課税がありえますが、本記事の水準(基礎年金+α)では公的年金等控除の範囲に収まるケースが多いため無視しています。
- 年金制度・給付水準は将来変わる可能性があります。オルカンの期待リターン・リスクも参考値であり、将来を保証するものではありません。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言・保険や金融商品の勧誘ではありません。ご自身の状況に応じて判断してください。
この記事のシミュレーションも、公開中の シンプルFIRE計画 と同じ計算エンジンで行っています(計算スクリプトはサイトのリポジトリで公開しています)。
筆者:yokafolio(30代・FIREを目指して積立中)。「余白のある人生」をテーマに、シンプルな家計・資産ツールを作っています。