家賃分のマネーマシンは、35年ローンより易しいか——賃貸×FIREを検証する(後編)

前編では、持ち家に伴うリスクを一次データで並べました。ローン残高が資産価格の変動を受けないこと、管理費・修繕積立金・固定資産税が完済後も続くこと、災害や管理組合の合意形成といった「地面ごと引き受ける」コストがあること。この三つを見てきました(前編:持ち家のリスクを一次データで並べる)。

後編である本記事では、逆側の椅子に座ります。賃貸にもリスクはあります。そのうえで、筆者が仮説として持っている問い——家賃分のマネーマシンを作る方が、35年ローンを組むより易しいのではないか——を、できるだけ同じ精度の数字で検証します。なお、高齢期の入居ハードルや老後の家計収支は、それ自体が数字の重いテーマのため今回は扱わず、別記事にあらためて回します。

検証1:価格と金利が同時に来た2026年

まず、いま「買う」という選択肢がどれくらいの重さになっているかを確認します。

価格と金利が同時に上がると、返済額はどうなるか。元利均等・35年420回・ボーナス返済なし・諸費用除くの前提で試算すると、7,000万円を年3.140%で借りた場合、毎月返済額は274,894円、総返済額は約1億1,546万円(うち利息約4,546万円)です。5,000万円なら毎月196,353円、総返済約8,247万円になります(いずれも筆者計算)。

金利差の重みも押さえておきます。同じ前提で5,000万円を借りる場合、金利が1.0%から1.5%へ上がると毎月返済は+11,949円、総返済は+502万円増えます。7,000万円で1.0%から2.0%への変化なら、毎月+34,284円、総返済+1,440万円です(いずれも筆者計算)。0.5〜1.0ポイントの金利差は、決して誤差ではありません。

7,000万円・35年・元利均等で借りた場合の総返済額(金利別)
金利1.0%8,299万円
金利1.5%9,002万円
金利2.0%9,739万円
金利3.140%(2026年7月)1億1,546万円

筆者試算(元利均等・35年420回・ボーナス返済なし・繰上返済なし、諸費用と保険料は含まない)。3.140%は住宅金融支援機構が公表する2026年7月資金受取分フラット35の最多金利。

金利タイプの選び方にも触れておきます。変動型を選ぶ人は75.0%を占め、今後1年で金利が「上昇する」と見ている人は73.7%にのぼります。にもかかわらず、金利上昇時の返済増加額について「少し不安」「よく理解していない」「全く理解していない」と答えた層の合計は52.0%です(住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果」2026年1月調査、n=1,237、令和8年2月20日公表。合計は筆者計算)。変動金利は毎月の返済額の話であると同時に、理解度の話でもあります。ある大手行の変動金利は2026年7月1日現在で店頭表示金利3.125%・優遇後0.945%となっており、優遇幅が固定されたまま基準金利だけが動く仕組みです(1行の事例であり、業界平均ではありません)。

一方で、「上がり続ける前提」を弱める数字も併記しておきます。2025年の初月契約率は63.9%で2年連続70%割れ、2026年6月末の販売在庫は6,389戸(前年同月末比+363戸)です。中古マンションも、首都圏の成約㎡単価が2026年5月・6月と2か月連続で前年同月比マイナス(6月は▲0.8%)となりました(不動産経済研究所、東日本レインズ月例速報)。価格も金利も、一方向にしか動かないわけではありません。

なお、事務手数料(借入額の2.20%型など)や「諸費用は物件価格の3〜5%」という数字はよく見かけますが、今回は一次ソースで確定できませんでした。確認できた項目だけを積み上げると、所有権移転登記の住宅用家屋軽減税率0.3%・抵当権設定登記0.1%(いずれも固定資産税評価額・債権金額ベース)、中古の仲介手数料は上限3.3%(400万円超の部分)です(国土交通省の報酬告示に関する案内、国税庁No.7191)。

「買う」と「借りる」で、必要資産の立て方はどう変わるか

ここまでの数字を並べると、「買う」を選んだ瞬間に必要になるのは、頭金と月々の返済額だけではないことが分かります。管理費・修繕積立金・固定資産税という完済後も続くコストと、金利タイプによる不確実性を、35年という期間そのまま引き受けることになります。

「借りる」を選ぶ場合、必要資産の立て方は形としてはシンプルです。生涯にわたって払い続ける家賃(と、その値上がり分)を、運用で賄えるだけの資産に置き換える、という一本の式になるからです。もっとも、これは「その置き換えが本当に成立するか」をまだ検証していない、あくまで仮説の出発点にすぎません。取り崩し中の相場下振れをどう扱うかという論点は、後半の反論パートで正面から扱います。

検証2:賃貸側のリスクも同じ精度で並べる

仮説を検証するには、賃貸側のリスクも同じ精度で見る必要があります。

賃貸のいちばんの弱点は「終わりがない」ことです。家賃を月10万円と仮に置いて35年払えば4,200万円になり、その後も払い続けます。マネーマシンは、この終わりのないコストを、こちらも終わりなく賄い続けなければなりません。ローンが「有限の重さを前半に集中して背負う」構造だとすれば、家賃は「一定の重さを永久に背負う」構造です。

供給側には一定の余力があります。賃貸用の空き家は約443万戸あり、大家側の事情とは別に、物件そのものは市場に相当数存在します(総務省「令和5年住宅・土地統計調査」、国土交通省資料)。

保証まわりも押さえておきます。賃貸借契約の約97%で連帯保証人または家賃債務保証会社の利用が求められ、約6割が保証会社を利用しています(平成26年度調査。やや古い数字である点に注意)。家賃債務保証会社は約250者存在し、うち国の登録を受けているのは104者です(令和6年9月時点、国土交通省)。

賃貸のコスト側の実額も見ておきます。

項目 数値
家賃(平均/中央値) 77,677円/70,000円
共益費 4,441円
更新手数料がある世帯 44.7%(うち1か月分が61.5%で最多)
敷金・保証金がある世帯 57.7%
礼金がある世帯 42.6%
仲介手数料がある世帯 44.2%

(国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査報告書」)

退去時のトラブルも無視できません。原状回復に関する相談は年1.3万件前後で高止まりしており、2024年度は13,277件でした。国民生活センターは2026年2月17日に注意喚起を出し、6年居住で17万円請求、約10年居住で約20万円請求といった事例を挙げています。ただし賃貸世帯数全体に対する比率としては小さく、件数のまま受け止めるべき数字です。

隣人リスクも、持ち家に固有の話ではありません。賃貸で困った経験がある世帯は21.1%あり、そのうち入居時の困りごとの1位は「近隣住民の迷惑行為」で39.0%です(国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」)。賃貸を選べば近隣トラブルを避けられる、というわけではないことが分かります。

持ち家側にとって有利な数字も、ひとつ挙げておきます。前編で修繕積立金の負担に触れましたが、大規模修繕にあたって一時金を徴収した管理組合は1.5%にとどまります(国土交通省「マンション総合調査」)。「いつか大きな一時金を請求される」という不安は、少なくとも実績としてはまれな事象です。

そして、仮説にとって一番効いてくるのが「家賃は上がらない」という前提です。借家(専用住宅)の家賃は2003年の51,064円から2023年の59,656円へ、20年で+16.8%(年率約0.78%)でした。直近5年(2018→2023)だけを見ると+7.1%(年率約1.38%)、1畳当たりでは+10.7%と、直近のほうがペースは速く出ています(総務省「令和5年住宅・土地統計調査」、増減率と年率はいずれも筆者計算)。ただし5年という短い窓は振れ幅が大きく、間の年次を挟まずに20年平均と並べただけでは「上昇が加速している」と言い切ることはできません。それでも、生涯にわたって家賃が今の水準で固定される前提の試算が保守的とは言えない、という程度のことは言えます。

主要な反論に、正面から答える

ここまでの検証だけでは、持ち家側からの反論に答えられません。強い形の反論を五つ取り上げ、順に検討します。まず全体像です。

反論 検討の結論(要約)
団信があるからローンは保険付きだ 保障は割安。ただし対象範囲は限定的で、賃貸側も同等の保障を買える
レバレッジをかける方が合理的だ 期待リターンと3.140%の差は思ったより薄い
投資にもシーケンスリスクがある その通り。返済の前半と下振れが重なる非対称性は残る
インフレが名目債務を目減りさせる 理屈は成立。ただし全期間固定は3.3%と少数
生涯コストは持ち家の方が安い 前提次第で反転する。金利だけでも結論は動く

団信があるからローンは「保険付き」の資産形成だ

これは的を射た指摘です。フラット35の新機構団信は、加入しない場合の金利が「団信付き金利-0.2%」と明示されており、保険料相当が年0.2%という、単体の保険としては割安な保障です。民間住宅ローンでも994機関のうち955機関が健康状態を審査項目とし、834機関が団信加入を必須としています(国土交通省「令和7年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」令和8年3月)。

ただし保障の対象は、契約者に万一のことがあった場合と所定の高度障害状態に限られ、就業不能や収入減はカバーしません。賃貸側も生命保険等で同等の保障を用意できるため、比べるべきは「保障の有無」ではなく、年0.2%相当という保険料の割安さそのものです。

期待リターンでレバレッジをかける方が合理的だ

物差しとして、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の実績を置いてみます。2001年度以降25年間の収益率は年率+4.67%(累積+196兆9,306億円、運用資産293.6兆円)で、2026年7月のフラット35最多金利3.140%との差は1.5ポイント程度です(GPIF 2025年度業務概況書会見資料、2026年7月3日)。

ここで注意したいのは、+4.67%が名目値であることと、国内外の債券を半分含む分散ポートフォリオの実績であることです。GPIFの長期目標そのものは「名目賃金上昇率+1.9%」という控えめな実質利回りに置かれています。株式比率を高めれば期待値は上がりますが、その分だけ振れ幅も大きくなります。借入金利との差がどれくらい残るかは、置く前提しだいで大きく変わる——この一文以上のことを、筆者は断定できません。

シーケンスリスクは投資側にもある

その通りです。住宅ローンは元本と返済期日が確定した債務ですが、投資リターンは確率分布です。金融庁の資料では、保有期間5年だと収益率分布にマイナスが出現し、20年で年率2〜8%に収斂するとされています(金融庁説明資料、平成29年2月24日、1985年以降のデータに基づく)。返済負担が重い前半にリターンの下振れが重なると、影響は非対称に効いてきます。前半で触れた「家賃を資産に置き換える」という式が、そのまま素直に成立するとは限らない理由がここにあります。

インフレは名目固定の債務を目減りさせる

理屈としては成立します。消費者物価指数は2026年6月に113.6(2020年=100、前年同月比+1.7%)で、実質金利が短中期ゾーンを中心にマイナスであるという指摘も日銀のワーキングペーパー(執筆者個人の見解であり、日本銀行の公式見解ではありません)に見られます。

ただし、この理屈が効くのは金利が固定されている借り手に限られます。日本の住宅ローン残高は変動金利型が70.8%を占め、全期間固定はわずか3.3%(新規貸出額ベースでは変動が83.5%)です(国土交通省「民間住宅ローン実態調査」令和7年度)。残高で見て1割にも届かない層の話、ということになります。

さらに、この反論には両刃の面があります。CPIの中分類を見ると、家賃は101.2(前年同月比+0.4%)とほぼ横ばいが6年続いている一方、設備修繕・維持は127.4(同+3.6%、2020年比+27.4%)と上昇しています(総務省「消費者物価指数」2026年6月分)。この数字は「インフレで家賃が上がるから持ち家有利」を支持せず、むしろ「持ち家の修繕費はインフレを直撃する」という賃貸側の主張を支持します。両方書くのがフェアでしょう。なお、実質債務が軽くなるかどうかは物価そのものではなく名目所得の伸びが決めるため、CPIだけで断定はできません。

生涯コストの試算では持ち家の方が安い

民間試算では、実際にそう出るものがあります。住宅事業者による試算例(物件3,500万円・金利1.0%・50年)では、持ち家が約5,558万〜6,058万円、賃貸が約6,979万円でした。

では金利だけを動かすとどうなるか。他の前提をそろえて比べるため、同じ3,500万円・35年・元利均等で金利を1.0%から3.140%へ置き換えて筆者が計算すると、総返済額は4,150万円から5,773万円へ、約1,623万円増えます(筆者計算)。返済額だけでこの幅が動くのですから、生涯コストの結論も前提しだいで動きます。

別の独立した試算も見ておきます。金利2.3%を置いたFP監修の試算(SUUMO、竹下さくら氏監修)では、持ち家が約8,450万円、賃貸が約8,199万円で、賃貸が約251万円安くなっています。ただし先の住宅事業者の試算とは物件価格も期間も算出主体も違うため、二つを並べて「金利だけで逆転した」と読むことはできません。読み取れるのは、前提が変われば結論はどちらにも転ぶ、ということだけです。

なお、政府機関が公表した公式の生涯コスト比較試算は、今回見つけられませんでした(存在しないと断定するものではありません)。世の中に出回っている比較は、いずれも住宅事業者・不動産メディア・FPによる民間試算である点を踏まえて読む必要があります。

実際に返済している人は、どう感じているか

理屈だけでなく、当事者の実感も見ておきます。住宅ローン返済中の人のうち、借入当初と比べて返済の実質的な負担感が「大きくなった」「やや大きくなった」の合計は37.8%(n=5,000)です。変動金利タイプに限ると、金利変動リスクに不安を感じるようになった人の合計は53.5%にのぼります。全期間固定でも「想定外の大きな支出」を挙げた人が24.2%おり、返済以外のコストの存在を裏付けています(住宅金融支援機構「住宅ローン利用者(2024年度以前借入者)の実態調査結果」令和8年1月23日、合計は筆者計算)。

補助的なデータとして、住まいサーフィンが集計した体験談の分類(任意投稿1,530件)では、1位が「ご近所・近隣施設」254件、2位が「騒音問題」220件です。ただし同社は、騒音の多くが線路・大通りなど外部騒音によるものだと説明しており、上下階トラブルの証拠としては使えません。任意投稿の分類であることも含め、あくまで補助的に読むべき数字です。

7,000万円の借入で毎月274,894円という返済額が、自分の手取りに対してどれくらいの重さになるか。確かめてみたい方はシンプル手取り計算で試算できます。

結論:どちらが正解かではなく、どちらの「難しさ」を引き受けるか

検証を並べてみると、マネーマシン仮説の完勝という結論にはなりませんでした。賃貸を選ぶなら、必要資産は「家賃分」に加えて「家賃の値上がり分」まで織り込んだ額になります。持ち家を選ぶなら、「返済」に加えて「管理費・修繕積立金・税」、そして「災害と合意形成のリスクを地面ごと35年抱える」ことになります。どちらも、軽い選択ではありません。

そのうえで、筆者が現時点で賃貸を続けている理由を、断定ではなく一つの判断として書いておきます。

とはいえ、お金に相当の余裕ができれば、持ち家という選択肢も考えると思います。持ち家を否定しているわけではありません。

数字で判断したい方のために、筆者が見ている確認項目も挙げておきます。管理費・修繕積立金の額と積立方式(均等か段階増額か)、長期修繕計画に対する積立の充足状況、ハザードマップと災害レッドゾーンの該当有無、金利タイプと金利が1%上昇した場合の返済増加額、そして完済時の築年数。この五つが分かると、比較の解像度はかなり上がります。

なお、高齢期の入居ハードルや老後の家計収支は、それ自体が数字の重いテーマのため今回は扱いませんでした。あらためて別の記事で検証します。この記事の結論は、あくまで現役期のコスト比較にとどまるものです。

生活費・住居費そのものを下げるという、より大きな話は以前書いた「1DKにふたりで暮らす」にまとめています。自分の家賃を必要資産に換算するといくらになるのか、手を動かして確かめたい方はシンプルFIRE計画をどうぞ。

前提・免責

本文中の返済額・累計額は、いずれも元利均等返済の標準式による筆者試算です(35年420回・ボーナス返済なし・繰上返済なし、諸費用と保険料は含みません)。統計はいずれも平均値どうしの比較であり、広さ・立地・世帯人員・世帯主年齢などの属性差が含まれます。制度・金利・料率は本文に記した時点のものであり、その後変更されている可能性があります。本記事は特定の投資判断・購入判断を勧めるものではなく、筆者は資産運用の専門資格を持つ助言者ではありません。

筆者:yokafolio(30代・FIREを目指して積立中)。「余白のある人生」をテーマに、シンプルな家計・資産ツールを作っています。

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