賃貸か持ち家か——まず「持ち家側のリスク」だけを一次データで並べてみた(前編)

この記事は持ち家を否定しません

筆者は30代、夫婦2人・子どもなしで、いまは都市部の1DKを借りて暮らしています。立場としては賃貸派です。ただ、持ち家そのものを否定するつもりはまったくありません。資金に余裕があるなら持ち家は十分に良い選択だと思いますし、実際にそう選ぶ人の判断を軽く見るつもりもありません。

それでも、この話題では次のような疑問が宙に浮いたままになりがちです。

先に、この記事のいちばん大事な断りを書いておきます。この前編は、あえて持ち家側のリスクだけを並べます。賃貸側にも当然リスクはありますし(原状回復のトラブル、更新料、住み替えのたびの費用など)、持ち家側には団体信用生命保険やインフレへの強さといった大きな利点もあります。それらは後編でまとめて扱います。ですので、この前編だけを読んで「やっぱり持ち家は損だ」と受け取るのは、たぶん早すぎます。片側の材料をていねいに揃える回、くらいに思って読んでいただけたらと思います。

数字の扱いも宣言しておきます。以下に並べるのは公的統計と一次資料が中心で、累計額などの計算が必要な箇所は筆者の計算であることをその都度書きます。あくまで一般論としての試算であり、個別の物件や家計にそのまま当てはまるものではありません。

なお、住居費そのものを下げる工夫は「1DKにふたりで暮らす」で書きました。あちらは生活費の削減額が必要資産にどう効くかという話で、今回は住居費を「買う」か「借りる」かという構造の違いに絞ります。

この記事の物差し:住居費は必要資産のかたちを変える

FIREの必要資産を考えるとき、よく使われる物差しが4%ルールの逆算(25倍則)です。年間支出に25を掛けると、その支出をまかない続けるのに必要な資産額の目安になる、という考え方です。

これを住居費に当てはめてみます。家賃が月10万円なら年120万円、その25倍で3,000万円。家賃を払い続ける前提なら、これだけの資産が「家賃分を生み出し続ける役割」を担うことになります(4%ルールの単純逆算、筆者計算)。なお25倍則はあくまで議論の物差しとして紹介しているもので、資産形成の方法をおすすめするものではありません。

持ち家の場合、ローンを完済すれば家賃はゼロになります。ただし住居費がゼロになるわけではなく、管理費・修繕積立金、固定資産税、専有部分の修繕費は完済後も残ります。その残る部分がどのくらいかを、次の節から見ていきます。

この記事の背後にある問いも書いておきます。「家賃分を生み出すマネーマシンを作る」ほうが「35年ローンを組んで持ち家を持つ」より難易度が低いのではないか、という仮説です。この仮説には強い反論があり、正面から検証するのは後編です。前編では、その材料として持ち家側の数字を揃えます。

論点1:持ち家のコストは「ローン返済」で終わらない

分譲マンションでは、住宅ローンの返済とは別枠で管理費と修繕積立金がかかります。

国土交通省の調査によると、全国平均は管理費が月11,503円、修繕積立金が月13,054円です(いずれも駐車場使用料等からの充当額を除くベース)。単純に足すと月24,557円、値上げがないと仮定しても35年(420か月)で約1,031万円になります(国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕」、合計と累計は筆者計算)。値上げも一時金も駐車場代も含まない、下限側の見積もりです。

やっかいなのは、いまの積立額の多くが「将来上がる前提」で設計されていることです。

項目 数字
積立方式が段階増額積立方式 47.1%(均等積立方式は40.5%)
平成27年以降完成の物件に限ると段階増額 81.2%
計画額に対して積立が不足している 36.6%(うち20%超の不足が11.7%)
修繕積立金の月額平均の推移 平成11年度7,378円 → 令和5年度13,054円

出典はいずれも国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(〔概要編〕および「居住と管理の現状」)です。25年で約1.8倍、そして新築の8割が「これから上げます」という設計になっている、というのが全体像になります。

大規模修繕そのものの負担も見ておきます。1回あたりの工事費は戸あたり100〜125万円という回答がいちばん多く、周期は13年が最多です。周期は短くなる傾向にあり、1回目が平均15.6年だったのに対し3回目は12.9年でした(国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」)。

ここで、自分にとって都合の悪いデータも書いておきます。「修繕のたびに一時金を取られる」という通説は、直近のデータではあまり支持されません。大規模な計画修繕を実施した1,167組合の資金調達方法を見ると、修繕積立金でまかなったのが88.4%で、一時徴収金は1.5%(17組合)にとどまります(国土交通省「令和5年度マンション総合調査」データ編)。つまりリスクの本質は突発的な一時金ではなく、恒常的な値上げの側にあると考えるのが素直だと思います。

税金の面では、固定資産税の標準税率が1.4%、都市計画税が0.3%です。新築マンション(3階建以上の耐火建築物)は建物分の税額が5年度にわたり2分の1に減額されますが、これは逆に言えば6年目から本来の税額に戻るということでもあります。買った直後の税額をそのまま将来に延ばして考えると、見積もりが軽くなります(総務省「固定資産税の概要」、東京都主税局「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)」)。

家計調査で持家世帯と借家世帯を比べると、差が大きいのは修繕まわりです。勤労者世帯の「設備修繕・維持」は持家10,434円に対し民営借家733円で、差は月9,701円(年換算で約11.6万円)。光熱・水道は差が小さく、二人以上の世帯で持家24,877円・民営借家22,432円、差は2,445円です(総務省「家計調査 家計収支編」2025年 第3-7表、差は筆者計算)。

ただしこれは平均値どうしの比較で、そのまま「持ち家は高い」とは読めません。持家世帯の世帯主平均年齢は62.3歳、借家世帯は49.6歳、床面積も一戸建126.32㎡・共同住宅50.31㎡と、比べている集団の中身がかなり違います。

論点2:「買えば資産が残る」は、全国一律では成り立たない

「持ち家は資産になる」という話の根拠として、不動産価格の上昇がよく語られます。国土交通省の不動産価格指数(住宅、2010年平均=100)で見ると、上がっているものとそうでないものがはっきり分かれます。

不動産価格指数の15年変化(2010年=100、2025年12月時点)
全国マンション221.24(+121%)
全国戸建住宅120.48(+20%)
全国住宅地118.25(+18%)
四国地方 戸建住宅97.43(▲3%)

国土交通省「不動産価格指数(住宅)」より、季節による変動をならしていない系列(原系列)の数値。四国地方の戸建住宅は2010年の水準を下回っている。

マンションは221.24(+121%)、戸建住宅は120.48(+20%)、住宅地は118.25(+18%)。値上がりが際立つのは主に都市部のマンションで、地域によっては2010年の水準を下回っています(四国地方の戸建住宅97.43、中部地方の住宅地96.72)。なお季節変動をならした系列では数値がやや異なり、また公表が延期中のため、確認できた最新は令和7年12月・第4四半期分です。

もちろん、+121%という上昇はそれ自体、持ち家の大きな魅力です。ここで言いたいのは「上がらない」ではなく、上がった層はかなり狭いということです。直近の地価公示(令和8年、2026年1月1日時点)の住宅地変動率も、全国+2.1%に対して東京23区は+9.0%、地方圏の「その他の地域」は+0.6%と開きがあります。下落している県も12県あります(栃木▲0.2%、和歌山▲0.6%など。県数は変動率が▲表示の県を筆者が数えたもの。国土交通省「令和8年地価公示の概要」)。

「資産として残る」と言うなら、出口である売却の実態も見ておきたいところです。首都圏の中古マンション市場では、2026年6月の成約が4,241件に対し、在庫は45,995件。月間成約件数の約10.8か月分にあたります。価格面では、在庫の㎡単価116.54万円に対して成約の㎡単価は82.64万円で、在庫は成約の約1.41倍の値付けです(公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年6月度」、倍率と月数は筆者計算)。売り出し中の物件の多くは、希望価格ではまだ売れていない、ということになります。

築年数の面でも参考になる数字があります。成約物件の平均築年数は27.48年、在庫は29.24年(同)。いま30代で買った物件は、売るころにはちょうどこの築年数帯に立ちます。

市場全体の背景として、総住宅数6,504万7千戸に対し空き家は900万2千戸、空き家率13.8%で過去最高です(総務省「令和5年住宅・土地統計調査」基本集計 確報)。ただし空き家率そのものは2013年13.5%から2023年13.8%へ、10年で0.3ポイントしか動いていません。「空き家が急増している」という表現は統計と合わないので使いません。増えているのは総数と、「賃貸・売却用等を除く空き家」の割合のほうです(2013年5.3%→2023年5.9%、385万6千戸)。

参考・民間の推計:野村総合研究所は「直近の除却水準が続いた場合」という前提で、2043年の空き家率を約25%と予測しています(2024年6月13日発表)。これは政府統計ではなく前提つきの民間試算なので、上の実測値とは分けて扱ってください。

論点3:動かせない資産としてのリスク

持ち家は簡単には動かせません。この節では、その「動かせなさ」がどんなリスクと組み合わさるかを、災害・管理組合・転勤の3つに分けて見ます。

災害と、保険で埋まらない部分

日本は地震の多い国です。気象庁は、マグニチュード5.0以上でみて「世界で起こっている地震のほぼ1/10」が日本及びその周辺で起きているとしています(気象庁「地震について(よくある質問集)」)。住宅被害の規模はこうなります。

災害 全壊 半壊等
東日本大震災 122,050棟 283,988棟
令和6年能登半島地震 6,520棟 158,120棟
令和元年東日本台風 3,273棟 63,743棟(浸水29,556棟)

出典は順に、消防庁「令和6年版 消防白書」(令和6年3月1日現在)、内閣府「令和7年版 防災白書」(令和7年5月13日時点)、内閣府「令和2年版 防災白書」(令和2年4月10日現在)です。水害も過去の話ではなく、令和元年の全国水害被害額は約2兆1,800億円で統計開始以来最大でした(国土交通省、令和3年3月31日の確定値)。令和6年も約7,700億円にのぼります(同、令和7年12月15日時点の暫定値)。石川県は元日の地震に加えて同年9月の豪雨でも被災し、県別で統計開始以来最大の被害額となりました。

備えとなる地震保険は、制度としてはっきり「部分的」です。付保できるのは火災保険金額の30〜50%の範囲までで、限度額は建物5,000万円・家財1,000万円。支払いは全損100%・大半損60%・小半損30%・一部損5%の定率なので、全損でも受け取れるのは火災保険金額の最大50%です(財務省「地震保険制度と共済について」令和8年1月)。

熊本地震(2016年、当時は全損・半損・一部損の3区分)の実データでは、建物の全損認定は4%にとどまり、一部損が72%。一方で家財は半損以上が64%にのぼりました(財務省「地震保険の加入促進について」令和7年5月23日)。建物には大きな損害と認定されなくても、暮らしの中身のほうが傷むという構図です。

マンション特有の点もあります。共用部分の地震保険付帯率は52.0%で、専有部分の74.4%より約22ポイント低い。共用部分の契約者は管理組合なので、自分ひとりでは決められません(同)。

制度面では、住宅ローンが残ったまま被災した場合の受け皿として自然災害債務整理ガイドライン(2016年4月運用開始)があります。令和8年6月末時点の実績は、自然災害案件の委嘱1,541件、債務整理の成立679件です(運営機関「利用状況」)。件数が少ない理由はこの数字だけでは分かりません。要件に該当する人が少ないのかもしれませんし、制度が知られていないのかもしれません。「救済されない制度だ」と読むのは行きすぎで、ここでは存在は知っておきたい制度という程度に留めます。

立地そのものを35年間動かせないという点も、じわじわ効いてきます。国も税制面で立地の選別を始めていて、令和10年入居分から、災害レッドゾーンに立地する新築住宅は住宅ローン減税の対象外になります(建替え・既存住宅の取得・リフォームは対象。国土交通省「令和8年度税制改正概要」令和7年12月)。

参考・研究者による推計:日本銀行のワーキングペーパー(2026年5月22日公表、執筆者個人の見解であり日銀の公式見解ではありません)は、令和元年東日本台風の浸水地域で地価が5年後に10%下落し、浸水境界から100m以内の非浸水区画でも5%下落したと推計しています。これは公的な確定統計ではなく研究上の推計値です。

管理組合という「もうひとつの家計」

分譲マンションを買うということは、管理組合の一員になるということでもあります。国土交通省「令和5年度マンション総合調査」から、いくつか。

ただしこの調査は管理会社経由の配布が中心で、自主管理の組合はごく一部しか含まれていません。管理状態の良いマンションに寄ったサンプルである可能性があります。また、騒音や隣人の問題は持ち家に固有のものでもありません。国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」では、民間賃貸の入居時の困りごとの1位が「近隣住民の迷惑行為」39.0%です。ここは持ち家側だけの弱点ではない、と書いておくのが公平だと思います。

持ち家側に固有なのは、むしろ意思決定を他人と共有し続けることのほうです。管理費等を3か月以上滞納している住戸があるマンションは30.1%で、平成30年度の24.8%から増えています。区分所有者のうち世帯主が70歳以上の割合は25.9%、築40年以上のマンションでは5割を超えます(同調査、および国土交通省住宅局・法務省民事局の法改正説明会資料)。合意形成の相手は、時間とともに入れ替わっていきます。

出口である建替えや大規模改修の要件も、決してやさしくはありません。改正区分所有法(2026年4月1日施行)で、建替え決議は一定の客観的事由がある場合に4分の3へ緩和されましたが、事由がなければ5分の4のままです。共用部分の変更決議も原則4分の3で、国自身が「決議要件を満たすのが容易でなく必要な工事等が迅速に行えない」ことを課題として明記しています(国土交通省住宅局・法務省民事局の法改正説明会資料、令和7年7月)。

築40年以上のマンションは2023年末の137万戸から、2033年末に274万戸、2043年末には464万戸に増える見込みです。いま組む35年ローンの完済時期は、ちょうどこの市場のただ中にあたります。

なお、東京都の管理状況届出制度では、届出済み10,665棟のうち約17.5%に管理不全の兆候が確認されています。ただしこの制度の対象は昭和58年以前に建築されたマンションに限られるので、「築40年超の物件ではこのくらいの割合」という限定つきの数字です(東京都住宅政策本部の資料、令和6年3月末時点)。

転勤との相性

最後に転勤です。転勤経験者が感じる困難のうち「持ち家を所有しづらい」と答えた人は68.1%で、介護(75.1%)に次ぐ高さでした。また、単身赴任を選んだ理由の1位は「持ち家があったため」61.6%で、子の就学(52.8%)を上回ります(いずれもJILPT〈労働政策研究・研修機構〉調査シリーズNo.174。2016年の調査で、10年前のデータである点にご注意ください)。

持ち家があることが、そのまま二重生活の理由になっている——という当事者の回答です。転勤の可能性がどのくらいあるかは職種次第なので、ここは各自の事情で重みが大きく変わる項目だと思います。

まとめ:前編で分かったのは「片側の重さ」だけ

ここまでを整理すると、持ち家側のリスクは住宅ローンの返済額の外側に集まっていました。

  1. 管理費・修繕積立金は完済後も残り、しかも多くが「将来上がる前提」で設計されている
  2. 資産としての値上がりは全国一律ではなく、上がった層はかなり狭い
  3. 立地が動かせないぶん、災害・管理組合の意思決定・転勤といった事情を引き受けることになる

もっとも、これで「持ち家が不利」と結論するのは早すぎます。冒頭に書いたとおり、この前編はあえて片側しか見ていません。賃貸側にも住み替え費用や更新のたびの負担がありますし、持ち家側には団体信用生命保険やインフレへの強さといった、ここでまったく触れていない利点があります。

冒頭の仮説——「家賃分を生み出すマネーマシンを作る」ほうが「35年ローンを組む」より難易度が低いのではないか——も、まだ半分しか材料が揃っていません。後編では賃貸側のリスクと、この仮説に対するいちばん強い反論を扱います。

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前提・免責

筆者:yokafolio(30代・FIREを目指して積立中)。「余白のある人生」をテーマに、シンプルな家計・資産ツールを作っています。

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