FIREに踏み切る判断はどう下す?——「成功率99%」を待つと3.4億円必要だった
このブログでは、40歳・資産5,000万円で完全リタイアして4%ルールで取り崩すと 100歳まで資産が持つ確率は41% という検証結果(4%ルールはFIREでも通用する?)を出発点に、サイドFIREや年金の織り込みで成功率がどう変わるかを見てきました。
でも、シミュレーターを何度回しても、最後に残る問いは同じです。
「結局、成功率が何%なら踏み切っていいのか?」
90%なら安心? 95%? いっそ99%?——今回は、この「安心のライン」を資産額に換算するとどうなるかを計算してみました。先に結論を言うと、完全な安心を資産だけで買うことはできません。そして、それでも踏み切るための考え方が見えてきました。
検証方法
これまでの記事と同じ条件です。
- 40歳でリタイア、生活費は月16.7万円(年200万円)
- 運用:期待リターン年5%・リスク(標準偏差)18%、金額はインフレ調整後の実質ベース
- 判定:100歳時点で資産が残っていれば「成功」。モンテカルロ法で1万回試行
- 今回は「開始資産をいくらにすれば、目標の成功率に届くか」を逆算
成功率90%の値段は約1.4億円、99%は約3.4億円
生活費(月16.7万円)を固定したまま、目標の成功率に必要な開始資産を探索した結果がこちらです。
| 目標成功率 | 必要な資産 | 取り崩し率(年) |
|---|---|---|
| 50% | 約5,800万円 | 3.5% |
| 70% | 約8,100万円 | 2.5% |
| 80% | 約1億200万円 | 2.0% |
| 90% | 約1億4,200万円 | 1.4% |
| 95% | 約1億8,600万円 | 1.1% |
| 99% | 約3億4,000万円 | 0.7% |
これまでの記事の基準ケース(5,000万円)
期待リターン年5%・リスク18%・1万回試行。生活費は月16.7万円で固定し、開始資産を二分探索で逆算。
注目してほしいのは、上に行くほど「1%の安心」が急激に高くなることです。80%→90%の10ポイントに約4,000万円、90%→95%のたった5ポイントにさらに約4,400万円。そして95%→99%の4ポイントには、約1.5億円が必要でした。
これを「働く年数」に換算すると、もっと実感が湧きます。資産5,000万円の人が月15万円の積立(+実質5%の運用成長)を続けた場合——
- 成功率80%(約1億円)まで:あと約10年(50歳)
- 成功率90%(約1.4億円)まで:あと約15年(55歳)
- 成功率95%(約1.9億円)まで:あと約20年(60歳)
95%の安心を資産だけで手に入れようとすると、ほぼ定年まで働くことになります。「早期リタイアの安心を完璧にしようとすると、早期リタイアではなくなる」——これがこの計算のいちばん皮肉な結論です。
「あと1年だけ働こう」は何ポイント買えるのか
米国のFIREコミュニティには One More Year Syndrome(あと1年だけ症候群) という言葉があります。目標額に届いたのに「念のためあと1年だけ」を毎年繰り返して、いつまでも踏み切れなくなる状態のことです。
では実際、「あと1年」にはどれだけの価値があるのでしょうか。40歳・資産5,000万円の時点から、1年働くごとに月15万円の積立と実質5%の運用成長で資産が増え、リタイアが1年遅くなる(=取り崩し期間が1年短くなる)として計算しました。
| 踏み切る時期 | 資産 | 100歳まで持つ確率 |
|---|---|---|
| いま(40歳) | 5,000万円 | 41% |
| あと1年(41歳) | 約5,430万円 | 47% |
| あと2年(42歳) | 約5,880万円 | 52% |
| あと3年(43歳) | 約6,360万円 | 57% |
| あと4年(44歳) | 約6,850万円 | 62% |
| あと5年(45歳) | 約7,380万円 | 67% |
働く1年ごとに月15万円の積立+実質5%の運用成長を仮定。期待リターン年5%・リスク18%・1万回試行。
最初の1年で +6ポイント、以降も1年あたり約5ポイント。「あと1年」は、たしかにかなり効きます。積立と運用成長で資産が増えることに加えて、取り崩す期間そのものが短くなる——二重の効果があるからです。
ただし、見てのとおり5年働いても67%。さきほどの表と合わせると、「あと1年」を何回繰り返しても、95%や99%の世界にはなかなか届きません。1年ごとの伸びは着実にある。でも「これで絶対安心」というラインは、いつまで経ってもやって来ない。どこかで、確率を受け入れて跳ぶしかないわけです。
救いは「失敗は突然やって来ない」こと
ここまでだと少し息苦しい結論ですが、シミュレーションにはもう一つ、大事な事実が隠れています。うまくいかないシナリオでも、資産が尽きるのはずっと先だということです。
基準ケース(40歳・5,000万円・成功率41%)で、「資産がまだ残っている確率」が年齢とともにどう下がっていくかを描いてみました。
60歳時点ではまだ87%が健在。半数を切るのは84歳ごろ——破綻は「突然」ではなく「じわじわ」訪れます。期待リターン年5%・リスク18%・1万回試行。
年齢ごとの数値を表で見る
| 年齢 | 資産が残っている確率 |
|---|---|
| 40歳 | 100% |
| 50歳 | 99.8% |
| 60歳 | 86.5% |
| 70歳 | 66.5% |
| 80歳 | 53.8% |
| 90歳 | 45.9% |
| 100歳 | 40.6% |
グラフが急降下せず、なだらかに下がっていくのが分かります。つまり、リタイア直後に突然破綻するシナリオはほぼ存在しません。そして資産が尽きる前には、必ず「資産が想定より減り続けている」という前兆が何年も続きます。年に1回でも残高と取り崩し額を点検していれば、危ないコースに乗っていることには何年も前に気づけるのです。
気づいたときに打てる手も、これまでの記事で数字にしてきました。月5万円の収入を足せば成功率は+12ポイント(資産970万円分に相当)、65歳からの年金を織り込めば41%→57%。生活費を下げる、少しだけ働く、年金を確認する——修正手段は複数あり、しかも修正までの猶予は年単位で長い。
「踏み切る前に100%を目指す」のではなく、「踏み切ったあとに修正できる形を作っておく」。確率で考えると、こちらのほうがずっと現実的です。
まとめ:踏み切る判断の3ステップ
今回の計算をふまえて、FIREに踏み切る判断は次の3段階で考えるのがよさそうです。
- 「100%の安心」は買えないと知る。 成功率99%には約3.4億円——生活費月16.7万円のために、です。完璧を待つ戦略は、事実上「定年まで働く」と同じ結論になります。
- 自分のラインを決めて、あとは「修正手段」を用意する。 目安の成功率(たとえば80%)に加えて、生活費を月数万円下げられる余地、月5万円程度の収入の当て、年金の見込み額。ラインを資産だけで引き上げるより、修正手段を増やすほうがはるかに安上がりです。
- 踏み切ったあとは年1回だけ点検する。 失敗の前兆は年単位で現れます。残高が想定コースを大きく下回っていたら、取り崩しを減らすか収入を足す。この見直しがあるだけで、「一発勝負の賭け」は「調整し続ける航海」に変わります。
自分の条件で試すには
この検証に使ったシミュレーターは、無料のWebアプリとして公開しています。
「資産で暮らす」タブに自分の資産と生活費を入れると、今回と同じ成功率の計算が自分の数字でできます。開始資産を増やしながら何度か回せば、「自分の安心ライン」に必要な金額も逆算できます。登録不要・データはブラウザ内にのみ保存されます。
前提と注意点
- 本記事のシミュレーションは、リターンが毎年独立に対数正規分布に従うという単純化したモデルです。実際の相場の動きを完全に再現するものではありません。
- 金額はすべてインフレ調整後の実質ベース(現在の価値)で考えています。期待リターン5%は実質リターンを控えめに見た参考値です。
- 「あと1年」の計算では、働いている間の資産成長を期待値どおり(実質5%)と単純化しています。実際にはこの期間にも相場変動があります。
- 本記事およびアプリは情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
筆者:yokafolio(30代・FIREを目指して積立中)。「余白のある人生」をテーマに、シンプルな家計・資産ツールを作っています。